テーマ1 「いまの生活」を続けられるのか?
人口減少や高齢化の急速な進行により、地域のローカル経済のストックとフローが縮小し、地域経営が困難になりつつあります。このままでは、やせ我慢も限界に至り、地域格差が拡大することが懸念されます。こうした状況の中で、現在の我々が無意識に享受している「Quality of Life」とは何かを改めて考えると共に、地域の経済循環や公共サービスの枠組みの変化の中で水インフラの今後を議論します。
このテーマ1では、以下の3つのグループに分かれて、議論します。
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生活するためのコストの可視化
上下水道は、必要不可欠な都市基盤施設であり、ナショナル・ミニマムとしての認識が定着しています。但し、人口減少や高齢化の急速な進行により、水道料金収入や下水道使用料収入が減少し、更に、施設の老朽化に伴う更新需要が増加傾向にあるため、上下水道事業における持続的な経営を確保することが求められています。一定の「Quality of Life」を実現するため、上下水道を含む公共インフラ・サービスの収入と支出に関する実態を把握し、適正なコストを回収できているのかを議論します。 -
公共インフラ/サービスのカタチ
公営企業とは、地方公共団体が特別会計を設けて運営される事業です。上下水道事業、電気事業、ガス事業、交通事業、病院事業などが代表的な事業ですが、人口減少や過疎の進行により経営環境は悪化しています。そこで、上下水道事業だけではなく、地域の公共インフラ・サービスを総合的に担い、複数業種間を連携(水×通信・電気・ガス・道路・医療・介護)することで、持続的な地域経営を実現できるような新たな事業形態の可能性を議論します。 -
水インフラの「縁の下の力持ち効果」とは?
上下水道事業の需要は景気の動向に左右されにくいため、安定的に地域経済に貢献しうる産業とも言えます。地域経済を支えるインフラとしての経済的な価値(縁の下の力持ち)について、上下水道・電力・ガス熱供給・廃棄物処理・公共事業の分野で比較・分析します。また、地域経済の枠組みで持続可能なインフラ運営をしていくための工夫について議論します。
テーマ2 「よりよい生活/社会」を実現するための変革とは?
日本の多くの都市やまちは、人口減少、高齢化の進行という問題に直面しており、地域経済、都市の経営をいかに立て直すか、具体的な対策の立案が急務となっています。これら危機への対応は、都市づくりにおける水インフラの変革の第一歩としては大事なステップではありますが、それが将来的に根本的な解決に繋がるのかについては大いに議論の余地があると考えられます。
そもそも都市の水インフラは、その都市の在り方に大きく依存しており、また水利用も都市に住む人々の生活に依存しています。人口増加時代における水インフラは、成長型都市経営の下、都市のスプロール的発展と共に拡張されてきたが、人口減少途上、その先にある静止人口フェーズにおいて、都市の在り方、またそこで活動する人々の働き方を含めたライフスタイルはこれまでとは大きく変わっていくものと考えます。
内閣府は、IoTやAIなどデジタルテクノロジーの技術革新を第4次産業革命と位置づけ、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)とが融合したシステムが創出されることで、“Society 5.0”と呼ばれる経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな人間中心の未来社会を提唱しています。
本テーマでは、Society 5.0やスマート社会と呼ばれる未来社会に導く考えられる技術革新が、人口減少フェーズへの対応だけでなく、その先の静止人口フェーズにおける都市の在り方や人々の生活をどのように変革するのか、またその未来社会における水インフラはどうあるのが望ましいのか、都市圏だけでなく地方都市の再生という観点も含め、具体的に検討しながら議論をしています。そこでは人々の生活や都市に対する価値基準や評価軸も具体的に検討し、また未来社会についてはシナリオ分析等が想定されています。
テーマ3 「価値の変化」に対応した水インフラの変化
人口減少・高齢化による構造的な変化、技術の発展による既存サービスの破壊的転換や気候変動による災害の増加など予測困難な変化は、社会の表層的な変化にとどまらず、人の価値観に対して大きな変化をあたえるものと考えます。このテーマ3では、以下の2つの観点から議論をしています。
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価値の多様化
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)では12の目標と169の指標が設定されていることに見られるように、価値尺度は多様化し個人や地域社会が重要なことを考えて選択することが求められています。行政サービスは当たり前の存在であったものが、人口減少と高齢化により維持が難しい「贅沢なサービス」になりつつあるのかもしれません。一方、維持の困難さに関する理解は、行政サービスを提供する側と住民の側で大きな隔たりがあり、価値の対立が生まれ始めているとも感じます。人口減少と投資基金減によってすべての地域に一様な行政サービスを提供できなくなりつつ現状を踏まえ、何を大切にし、何を切り捨てるのかという価値を真剣に議論し、明らかにする必要が出てきていると考えます。
一方、ゲームの世界では「Pokemon Go」に見られるように、リアルな世界だけでなく、バーチャルな世界のレイヤーに価値が発生し、人の移動の変化や経済が生まれるようになっています。スマート水道メーターは世界では大きく普及をはじめ、膨大な利用者データが発生することでそれを活用したバーチャルな情報のレイヤーが生まれてくると予想されます。このような情報に水分野だけでなくどのような価値が置かれるのか、水そのものの価値を超えるようなことがあれば、水の経済的価値を根本から変える破壊的な事象となりえると考えられます。 -
価値の相対化
水供給は100%近い普及率を達成して久しく、水道の存在が当たり前になるほどその価値はいわば無意識化されています。一方で震災以降、バックアップ用途や高い安心を求める消費者意識からパッケージ水宅配が伸びています。ひとえに水供給といってもサービスの内容によって複数の経済的価値がうまれ、個人によって差が出てきているのかもしれません。また、コスト意識と合わせて業務用には井戸給水サービスが伸びており、供給者の側でも水需要減への危機意識から大口需要に水を使ってもらうために逓増制料金構造を変えようとしています。このように水の経済的価値は、他サービスや地域の文脈をふまえて相対的になってきている。料金構造 や家庭用の(PoUを含む)給水サービスを、住民を巻き込んでどのように価値づけていくのかが重要な要素となります。
過去のインフラの発展に鑑みると通信の普及率・投資額の伸びは、水や電気よりもはるかに速いスピードであった。これはインフラ整備のしやすさなどだけでなく、お金の流れ(通信は全国的な民間企業、需要者の直接投資が大きい)にも大きな違いがあるためと考えられます。利用者が出せると思うお金・生み出す価値の違いが大きいのかもしれません。つまり、他のインフラとの相対的な価値づけが、資金調達において重要であると考えられます。
さらに資金については、ESG投資が世界で急速に伸長し、日本でも年金機構の方針転換を大きな契機として投資セクター全体が非財務状況を重視しつつあります。これは、投資家が企業に置く「価値」の変化ともいうことができると思います。上下水道事業にはこの流れはまだ来ていませんが、公共投資資金の不足とインフラセクターへの民間資金活用の大きな流れは存在します。上下水道事業における長期安定性とリスクの低さは、年金資金のようなある種の資金と親和性が高い可能性があり、上下水道インフラの資金源の大きな転換となる可能性を秘めているのかもしれません。