これからの公共サービス/インフラのカタチはどうあるべきか①(異業種連携編)
日本の公共サービス/インフラは持続可能か
日本の地域経済は人口減少や高齢化の進行によって縮小傾向にあり、特に地方においては公共サービス/インフラの維持が困難になりつつある。また、それと同時に高度経済成長期を中心に整備されたインフラ設備の老朽化も進んでいる。国土交通省では2018年から2033年における社会資本の老朽化の推移を予測しており、道路橋は約25%から約63%、トンネルは約20%から約42%、河川管理施設は約32%から約62%へと、今後20年間で建設後50年を経過する施設の割合が加速度的に高くなる見込みを示している1)。
老朽化したインフラ設備を適切に維持管理していないと重大な事故につながることは過去の事例が示している。2012年に発生し9名の死者を出した笹子トンネル崩落事故では、それ以降5年に1回の点検がトンネルなどの道路施設に義務付けられるようになるなど、維持管理の重要性が改めて認知された。
全国では下水道管路の劣化・老朽化に起因する道路陥没が、令和2年には約2,700件発生している3)。2021年10月3日に発生した和歌山市の水管橋崩落事故は、水インフラ(上下水道)の老朽化の深刻さを物語る事例として記憶に新しい。
地域住民の足として重要な役割を持つ鉄道は、上記の通り料金収入減少の中、設備の老朽化が進むという厳しい事業環境の中で、経営を継続することが困難となり、地方で廃線が続いている2)。
水インフラも、交通インフラと同様に料金収入減少(図1)と設備老朽化(図2)から厳しい状況にある。交通インフラには、鉄道や道路といった複数の手段が存在し、その経営に関しても公営や民間といった選択肢が存在するが、水インフラは原則、自治体が供給責任を負うことから、現在の法制度では施策も限られるため、課題解決はより困難であると言えるかもしれない。 人口減少と設備老朽化が同時に進む地方において、公共サービス/インフラは持続性の観点で大きな課題を抱えており、持続可能性の危機に瀕している。一連の記事(3本立て)では、上記現状を踏まえ、日本の公共サービス/インフラのカタチについて、水インフラを軸に、将来のあるべき姿を考える。


持続のためのヒントは「異業種連携」にあり?
国内の公共サービス/インフラが整備されたのは、人口や経済が右肩上がりの時代であった。図2に示す通り、水道事業においても、1957年の水道法制定以降、日本の水道普及率が飛躍的に上昇した。昭和30年(1950年)代から40年(1960年)代にかけての高度経済成長期に、水道インフラは面的にも量的にも整備され、1978年には水道普及率が90%に達した。
建設中心であった当時は、人口増による需要の増加、あるいは潤沢な補助金を背景とし、とにかく目の前の需要を満たすことを優先し、投資を実施していくことでも事業が成立していた。一方で、上記に述べた厳しい社会環境と設備老朽化という状況を踏まえると、限られたリソースで公共サービス/インフラを維持していくためには、効率化を図っていく必要があることは自明である。
そのための手段のひとつとして、本記事ではインフラサービスの「異業種連携」に焦点を当てる。各インフラの維持のためにそれぞれの運営事業者や維持管理業者、あるいはメーカーが培った技術・ノウハウは、それぞれ他のインフラにも生かせる可能性があるのではないか、という考えである。
例えば、NEXCO中日本では道路点検のためのドローン技術等を開発している5)。また、NTT西日本では、東京電力や大阪ガスなどと株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマークを設立し、ドローンを活用したインフラメンテナンスサービスを提供している6)。これらの技術は、水インフラ等の管路や土木躯体、構造部材の維持にも使えるものと思われる。和歌山市の水管橋崩落のような事故も、予防することができるかもしれない。
地下埋設物という観点では、上下水道管路、ガス管、通信ケーブルも同じである。水道管とガス管の共同施工を行うことで、掘削幅を減らすことで費用を低減するなどの工夫は昔から行われてきたようである7)。同様に、地下埋設物の維持管理についても、共通するノウハウが利用できるかもしれない。
また、地域として限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)を有効に活用する観点でも、公共サービス/インフラの「異業種連携」に、持続可能性を高めるためのヒントがあるのではないだろうか。
次章では、水インフラと異業種の連携事例、さらには異業種の組織が、本業で培った技術を、水インフラの維持に活かすべく水インフラ事業に参入しているケースまで、事例調査を行った結果を紹介する。
異業種連携事例調査
(1) スマートメータ―に関する連携(水×電気×ガス)
スマートメーターとは通信機能を持ったデジタル式のメーターのことで、従来は人が検針することで記録していた各需要家の電気(あるいはガス、水道)使用量を、自動で、リアルタイムに中央のシステムへ知らせることができるものである。
スマートメータ―は電力事業分野においていち早く普及が進みつつある。理由は次の通りである。電力事業は、2000年に「特別高圧」の小売りが自由化されて以降改革が進み、2016年には家庭用を含む小売りが全面自由化され、2020年には発送電の法的分離が行われた。電力システムにおいては発電事業者の発電量と小売事業者が需要家に提供する電力量のバランスを常時許容される一定の範囲内に保つ必要があるが、このような複数の発電事業者・小売事業者が存在する中で導入されているのが、「計画値同時同量」という、発電事業者・小売事業者(あるいはそれらを束ねるアグリゲーター・バーチャルパワープラント(VPP))がそれぞれ送配電事業者に提出した計画値に従って発電・供給を行う責任を負う制度である。この制度の前提として、需要家の使用電力量をリアルタイムで把握することが必要となるが、そのためには、電力使用量をリアルタイムで中央システムに伝達するスマートメーターが必要である。つまり、電力改革を推進する上でスマートメータ―の導入は必須のものであり、その必要性から必然的にいち早く普及したのだと言えるだろう。実際、電力スマートメータ―は2022年2月時点で普及率が90%を超えており、資源エネルギー庁では2024年までには100%とする計画となっている。
また、ガス事業においても、1995年から大口需要家向けから小売り自由化が始まり、2017年には小売完全自由化され、電力事業同様、スマートメーターの普及が促進されている。ただし、都市ガスにおけるスマートメーターの普及率は電力事業に比べるとまだ低く0.3%程度となっており、日本ガス協会では2040年代に全てのメーターをスマートメータ―とする計画としている。
スマートメーターは水道分野においても需要の状況をリアルタイムで把握することでシステム全体の最適化に活用できるだけでなく、見守りサービスといった新たなサービスの提供の可能性や、検針という人の手間をなくすことができるという大きなメリットも持っている。水道分野でも2013年からスマートメーターの活用について水道技術研究センターで勉強会が始まり、その後も調査・研究プロジェクトが行われるなど、注目されてきた8)。ただし、実証実験等を除いて水道におけるスマートメーターの普及率は現状ほぼ0%である。
現在、電気、ガス、水道の使用量は各サービス個別に収集しているケースがほとんどであるが、これを一本化し、すべてスマートメーターを利用した同一システムで行えば、全体として大きな効率化になるはずである。このような考えから、2020年には電気事業連合会を中心とした電気・ガス・水道の共同検針に向けた検討も開始されており9)、2021年からは学術関係者や行政機関、スマートメーターの開発製造に関わる民間企業から構成される、共同検針インターフェース会議に引き継がれ、実現に向け運用ルール、無線方式、サーバ間接続方式などの仕様が検討されている10)。 また、表1に示す通り、近年では自治体、水関係企業および水以外のインフラ企業等、様々な組織がスマートメータ―を利用した共同検針等に関する実証実験を実施している。
| 内容 | 参加組織 | 期間 | 備考 |
| 電力スマートメーターの通信網をガス・水道でも利用する実証試験11) | 八戸圏域水道企業団、東北電力、八戸ガス | 2020年 | |
| 電力スマートメーターの通信網をガス・水道でも利用する実証試験(集合住宅16戸)12) | 静岡市上下水道局、中部電力、静岡ガス | 2020年~2022年(予定) | |
| 電力スマートメーターの通信網をガス・水道でも利用する実証試験を工場跡地の宅地開発エリア(410戸)で実施13) | 豊橋市上下水道局、中部電力、中部ガス | 2019年~2025年(予定) | 中部ガスは現在はガステックサービスと合併しサーラエナジー株式会社となっている |
| 電力スマートメーターのネットワークを活用し、LWPA(省電力の無線通信技術)を用いた共同検針の実現に向けた実証試験14) | 北広島市、岩見沢市、旭川市、北海道電力ネットワーク | 2019年12月~2020年3月 | 北海道電力ネットワークは北海道電力の送電子会社である |
| 電力スマートメーターが導入済みである離島と山間部での共同検針実証試験15) | 香川県広域水道企業団、四国電力送配電 | 2021年~ | 四国電力送配電は四国電力の送電子会社である |
| 電力スマートメータ―システムを活用した、水道メーター遠隔検針の実証実験17) | 徳島市上下水道局、四国電力送配電、第一環境 | 2022年~2023年(予定) | 水道検針が困難な箇所の電子式水道メーターに四国電力送配電が提供する無線通信端末を設置しシステムと通信を行うもので、設置個所数は10箇所程度 |
また、北陸電力は、IoT用通信回線サービス(通信回線サービス、回線接続サービス)を2020年4月から提供している16)。東京ガス、大阪ガス、東邦ガスのガス事業大手3社は、水道利用も視野に入れて、スマートメーターと業務システム間の信号授受システムを共同開発している18)。
このように、スマートメータ―における連携については多くの試みが行われており、電力・ガス・水道が一体となって、効率化を実現しようという動きが進行している状態であることがわかった。電力事業・ガス事業は小売り自由化が進み、激しい顧客の奪い合いとなっている中で、大手電力事業者・ガス事業者の念頭に新たなビジネスチャンスとして、水道事業があることも背景のひとつであると推測される。検針はガス・電力・水道の中で共通化が図りやすい要素であり、入口として手頃であると考えられる。実際、2022年に中部電力は水道事業への参入へ具体的な検討に入ると明らかにしている19)。また多くの上下水道PPP案件においては、コンソーシアムの中に異業種企業(ガス事業者・電力事業者・通信事業者)の姿を見るようになりつつある。
水道事業がこのように新たなビジネス機会として注目されていること自体は、水インフラの持続性向上を模索する上で歓迎すべきことであると思われるが、その異業種で培った技術を水インフラの持続発展に活かすことができるかは、元来水インフラを担ってきた自治体とそれを支えてきた企業・研究機関といかに上手く連携できるかがカギとなるのではないか。
(2)管路に関する連携(水×ガス×通信)
水道管、ガス導管、通信ケーブルはいずれも地下埋設物であるが、それらの管理は個々の事業者で行われており、公道における工事時期の調整(道路工事調整会議)といった連携は今でも行われているが、連携をさらに一歩踏み込んで行うことで全体としてより効率的な管理を行うことができる可能性がある。過去にも水道管とガス管の同時施工による工事費の削減が試みられた事例があることは前章で述べた通りである。
ガス事業者は自らの所有するガス導管のストックを効率的に維持管理するため、GISを利用した配管マッピングシステムを開発し運用してきた。その技術は水道管の維持管理にも活かされている。東京ガスの子会社である東京ガスエンジニアリングソリューションでは、1986年に東京都水道局の水道マッピングシステムを受注し、その後も現在までに多くの水道事業体から受注し、大きな存在感を示している。
同じく地下埋設物である通信ケーブル等を管理する主体である通信事業者に目を向けると、NTT西日本が積極的に水道事業に参入しており、熊本県有明・八代工業用水道運営事業や大阪市工水運営事業に参画している。また、名古屋市とは漏水検知共同研究(水量水圧の変化状況から漏水検知のアルゴリズム)も行っている20)。同社は「通信と水道はインフラや業務の共通点が多い」として、漏水の遠隔監視や料金徴収などで、培ったノウハウを生かしていくとしている21)。
また、静岡県湖西市と、ガス事業者であるサーラエナジー株式会社(2019年に中部ガスとガステックサービスの合併により設立)は、2021年12月に包括連携に関する協定を結び、水道事業とガス事業が協力・連携して、サービスの向上や強靭なライフライン整備など取り組んでいくこととしており、具体的な連携内容として、サービス(料金収納業務デジタル化、共同自動検針)、メンテナンス(管路データ共有化、点検・緊急対応における連携)、コンストラクション(計画の共有、ガス導管と水道管の同時施工)を掲げている22)。
東京ガスとNTT東日本、NTTインフラネットは、埋設物調査・工事立会の共同WEB受付を2021年より開始した。これは、今まで地下埋設物の工事を行う工事会社は、道路掘削工事の都度、各ライフライン事業者に申請を行う必要があり、また各ライフライン事業者も都度申請毎の対応を行っており、両者にとって効率化の余地があったところに、東京ガスとNTT東日本のサービス提供エリアにおける年間約8万件に及ぶ受付業務を、NTTインフラネットのWEBシステムを利用して共同受付するようにし、業務を効率化したものである23)。
このように、地下埋設物という観点では水道管、ガス導管、通信ケーブルともに、特に管理の点で共通する技術的要素が多々あり、今後も連携を発展させることでさらなる具体的な効果が期待できそうであることがわかった。
(3) 水インフラと電力システムの連携
直接的な維持管理の話からはいったん少し離れ、次に水インフラと電力システムの連携という切り口で調査した結果を記す。
世界では気候変動の問題を背景にカーボンニュートラルへの取り組みが求められており、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では2030年時点で再生可能エネルギー比率を36-38%にすると目標を掲げている。再生可能エネルギーの普及のためには、送電線の増強や蓄電池の普及といった電力システムのハード面の増強に加え、時間帯や気象条件により変化する再生可能エネルギー系電源の供給可能電力の状況にあわせて需要を調整するソフト面の仕組み(DR:デマンドレスポンス)が欠かせない。
実際に、水道施設の持つ電力需要の調整能力を利用した、デマンドレスポンスの試みが行われている。福山市、福山市立大学、JFEエンジニアリングは共同研究で、浄水場の配水池の容量をバッファとして利用し、送水ポンプを停止することで調整力を提供するシステムを開発した24)。2021年から実際に送配電事業者の調整力公募の枠組みに参画し、事業化している。神戸市水道局、出光興産、横河ソリューションは、水道施設のポンプ運転と市内に設置する蓄電池を、高度なエネルギーマネジメント技術とデジタル技術により遠隔・統合制御することで、ひとつの発電所のように機能させる仕組み(VPP)を実証している25)。
調整力は、削減した電気と同じ分を発電したことと同じ価値があるということであり、対価を得ることもできる。技術開発を進め、配水池のバッファのような浄水場の特性を利用したより応答性の高いDRシステムが開発されれば、水道事業が電力事業に参入し、再生可能エネルギーの普及を促進すると同時に、調整力対価という新たな収益源を得ることができる可能性もある。
また、再生可能エネルギーという観点では、下水処理により生じる汚泥は大きなエネルギーポテンシャルを有している。これを利用したバイオマス発電により得られた電気を、FITやFIPといった制度と組み合わせ売電する事業も行われており、再生可能エネルギーのひとつとして今後より普及することが期待される。
世界の潮流として脱炭素は避けて通れないものであり、上下水道事業についてもそれは当てはまる。日本国全体の平成30年時点のCO2排出量12億4千万t-CO2/年26)に対して、水道事業からの排出量は平成18年度時点で340万t-CO2/年27)、下水道事業からの排出量は平成28年度時点で630万t-CO2/年28)であり、上下水道事業由来の排出量は国全体の排出量の約0.8%を占める。国土交通省は2030年までに下水道由来のCO2排出量を208万トン削減する目標を掲げている29)。水道事業からのCO2排出量のうち9割以上は電力消費に由来しており27)、特に電力事業との連携による削減の余地が大きいと思われる。脱炭素に真剣に取り組む中で、今後より一層、水インフラと電力システムの連携の可能性は広がるように思われる。
(4) 事業運営ノウハウの水インフラへの活用
リソースの限られた厳しい事業環境下で公共サービス/インフラの持続可能性を向上させるためには、高度な事業運営ノウハウが必要である。民間事業者の持つ事業運営ノウハウを上下水道事業に取り込もう、という考えは、近年上下水道事業の運営において官民連携という手法がより注目され、国からも推奨されるようになった理由のひとつと言えるだろう。
官民連携の枠組みでは、従来のサービス購入型のPFIよりもさらに民間事業者の自由度・責任範囲を拡大したコンセッション方式(運営権方式)が実施されており、水インフラ関係としては2023年5月17日時点で事業者選定まで完了済みのものが国内で6件(大阪市工水、熊本県工水、浜松市下水、須崎市下水、三浦市下水、宮城県上工下水)実績がある。コンセッション方式は2018年の水道法改正により、水道事業でも実施が可能になっている。
もともとコンセッションは空港の運営事業を中心に拡大してきた。航空機の発着料金の設定やテナントによる収入等、商業的な工夫しろの大きい空港運営事業と、それらのない上下水道事業には大きな違いがあるが、コスト削減や長期間にわたる収支計画の策定力といった、共通で要求される能力もある。また、安定的な人材育成、適切な設備投資、ESG経営の促進といった価値が、民間事業者に期待されることは共通である。このような背景から、オリックス、前田建設、東急建設といった、空港コンセッションや、道路コンセッションで実績を多く持つ企業が、水インフラの知見を有する企業とコンソーシアムを形成することで、上下水道のコンセッション案件に参画している。また、海外の水道事業体に投資し、事業運営を行っている商社等も、今後国内の上下水道コンセッション事業等への参画に興味を示す可能性もあると思われる。
インフラの持続性を事業運営という切り口で見た際、経営的専門性を有する企業と、技術的専門性を有する企業が協力して事業運営を推進するのも、ひとつの異業種連携のかたちであると言えるかもしれない。
(5) 下水疫学
事例調査の最後に、本記事の本筋からは逸れるが、水インフラから生み出される可能性のある新たなサービスについて、下水疫学という切り口から調査を行ったので報告する。
下水から地域の疫病の感染状況を把握するという試みは昔から行われてきたが、この取り組みは新型コロナウイルス禍で改めて注目を浴びた。東北大学、山形大学、北海道大学、仙台市、日水コンからなるグループは下水中濃度から感染者数を推定するモデルを構築した30)。塩野義製薬と北海道大学は下水から新型コロナウイルスの高感度検出技術を共同研究している31)。島津製作所は京都大学協力のもとに下水で新型コロナウイルス検査サービスを開発し、自治体などへ売り込んでいる32)。オーストラリアでも下水から新型コロナウイルス流行状況を把握する技術が開発されているが、これは下水をろ過し、ろ紙に残った物質を砕いて核酸抽出し、PCR検査を行うものである33)。これらの技術が実用化されれば、下水道と連携する新たなサービス分野を創造できる可能性がある。例えば、下水を分析することにより地域における新型コロナウイルスの現在の流行状況を推定した結果を自治体に提供するサービスが考えられる。自治体はそれに応じた対応(対策の強化や緩和)を臨機応変に講じるのに役立てることができるだろう。
新型コロナウイルス感染症がいつまで人々の生活に大きな影響を与えるかは見通せないが、人間と疫病の関係は切っても切り離せないものである。下水疫学とそこから生み出されるサービスは、疫病と共存する社会の形を設計する上で、重要な役割を担う可能性があると思われる。
「異業種連携」から踏み込んだ「サービス統合」も
以上見てきたように、異なる公共サービス/インフラが連携し、維持管理を効率化したり、新たなサービスを生み出したりすることで、その持続可能性を高めようという試みが行われていることがわかった。
また、まだ国内では事例は少ないが、複数のインフラサービスをまとめた形での官民連携事業が行われているケースもある。これは「異業種連携」をさらに進めた「サービス統合」の可能性を示すものであると言えるだろう。
例として、大津市では、民間事業者が設立したびわ湖ブルーエナジー(大阪ガス74.8%、JFEエンジニアリング0.1%、水道機工0.1%、大津市25%)が、ガス事業はコンセッション、水道事業は業務委託(漏水対応、施設点検)によりガス・水道という2種のインフラサービスを担う事業が行われている。
また、妙高市では、民間事業者が設立した妙高グリーンエナジー(JFEエンジニアリング51%、北陸ガス44%、INPEX5%)が、ガス事業は事業譲渡、上下水道事業は包括的業務委託によりガス・水道・下水道という3種のインフラサービスを担う事業が行われている。
水インフラ以外では、加賀市においては、2006年に行政サービスを補完する組織として、加賀市総合サービス株式会社を設立し、主な業務として公共施設の指定管理、業務受託、給食調理の労働派遣を行っているほか、2019年からは地域新電力として「加賀新電力」を立ち上げ、収益を市政に還元する取り組みも行っている。
さらに国外に目を向けると、ドイツには地域の複数のインフラを担う事業者であるシュタットベルケという組織形態も存在する。
水インフラに限らず、今後老朽化の進む国内のインフラを持続可能なものにしていくためには、地域としての限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をより一層効率的に利用することが求められる。そのための手段として、上記に挙げたような異業種連携からさらに踏み込んだサービス統合という形は大きな可能性を秘めていると考える。サービス統合の想像しやすいメリットとしては、共通事務費の削減や、従事者の多能工化による効率化・組織力強化、異業種間に共通する技術的要素を軸とした技術革新の促進が考えられる。その一方で、組織形態(出資者を含む)、ガバナンス・官の関与の在り方、法制度の整理(例えば、水道のような受益者負担を原則とする事業の存在を考えると、一体経営の中で黒字事業によって赤字事業を補填することの是非など)など、検討すべき課題も多いと思われる。 異業種インフラのサービス統合について、メリット・デメリットの洗い出し、枠組み・法制度の詳細検討を行う中で、日本の文化になじむ持続的なインフラサービスのカタチのヒントを見つけることができるかもしれない。このような期待から、次記事ではシュタットベルケも参考としつつ、異業種間のサービス統合について考察する。
参考文献
1)令和3年度版国土交通白書2節P. 45
2)国土交通省「地域鉄道のあり方に関する検討会【資料編】」https://www.mlit.go.jp/common/001102182.pdf(2023年5月17日閲覧)
3)国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html(2023年5月17日閲覧)
4)総務省「水道事業経営の現状と課題」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000555182.pdf(2023年5月17日閲覧)
5)NEXCO中日本HP ニュースリリース https://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/5080.html(2023年5月17日閲覧)
6)株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマークHP https://www.jiw.co.jp(2023年5月17日閲覧)
7)日本水道協会「水道施設におけるコスト縮減対策実施事例集 平成16年3月」P.26 http://www.jwwa.or.jp/houkokusyo/pdf/suidou_cost.pdf(2023年5月17日閲覧)
8)水道技術研究センターHP http://www.jwrc-net.or.jp/kenshuu-koushuu/handout/smartmater.html(2023年5月17日閲覧)
9)電気・ガス・水道の共同検針に向けた取組状況について(2020年12月25日 電気事業連合会)
10)共同検針インターフェース会議の検討結果について(2021年9月1日 共同検針インターフェース会議)
11)東北電力HP https://www.tohoku-epco.co.jp/pastnews/normal/1205987_1049.html(2023年5月17日閲覧)
12)静岡市HP https://www.city.shizuoka.lg.jp/334_000085.html(2023年5月17日閲覧)
13)豊橋市HP https://www.city.toyohashi.lg.jp/41656.htm(2023年5月17日閲覧)
14)日本水道新聞 2021年9月2日
15)日本水道新聞 2020年10月4日
16)北陸電力HP https://www.rikuden.co.jp/press/attach/19092401.pdf(2023年5月17日閲覧)
17)東京ガスHP https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20201202-01.html(2023年5月17日閲覧)
18)日本水道新聞 2022年1月24日
19)朝日新聞 2022年1月26日
20)日本水道新聞 2021年3月18日
21)日本経済新聞 2021年8月16日
22)湖西市HP https://www.city.kosai.shizuoka.jp/soshikiichiran/suidoka/1_1/oshirasetopics/10804.html(2023年5月17日閲覧)
23)NTTインフラネットHP https://www.nttinf.co.jp/news/pdf/2021/inf-210426_01.pdf(2023年5月17日閲覧)
24)JFEエンジニアリングHP https://www.jfe-eng.co.jp/news/2017/20171016.html(2023年5月17日閲覧)
25)横河電機HP https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2021/2021-01-15-ja/(2023年5月17日閲覧)
26)経済産業省HP https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/003/(2023年5月17日閲覧)
27)平成18年度 水道統計
28)平成28年3月 環境省・国土交通省「下水道における地球温暖化対策マニュアル」
29)日本下水道新聞 2021年10月6日
30)日水コンHP http://www.nissuicon.co.jp/press-20211108/(2023年5月17日閲覧)
31)日本経済新聞 2021年2月26日
32)日本経済新聞 2021年2月25日
33)朝日新聞 2020年12月6日
